植物

植物(しょくぶつ、羅: plantae)とは、生物区分のひとつ。以下に見るように多義的である。
慣用的生物区分: 一般的には、草や木などのように、根があって場所が固定されて生きているような生物のこと。動物と対比させられた生物区分[1]。
生態的生物区分: 光合成をする生物のこと。多細胞体制のもののみとする場合や単細胞のものまで含める場合がある。
系統的生物区分: 真核生物の中の1つの生物群。陸上植物およびそれらに近縁な生物が含まれる。ワカメなどの褐藻は系統が異なるため含まれない。
植物という語が指し示す範囲は歴史的に変遷してきており、現在でも複数の定義が並立している。そのため、「植物」を分類群としては認めなかったり、別の名前を採用し「植物」はシノニムとする動きもある。分類群としての名称は植物界となる。なお、本文においては、系統的生物区分すなわち単系統群について主に記述する。

現在の植物
かつては植物は、広く光合成をする生物一般、すなわち藻類(光合成をする水生生物)全体やシアノバクテリア(藍藻)を含んでいた。さらに、光合成能力を失った植物と考えられていた真菌や、時にはシアノバクテリア以外の細菌まで含むこともあった。
現在でもホイタッカーの五界説をはじめとする、人為分類的な「植物」としての分類もあるが、ここでは、系統が異なるものは除き、単系統群を中心に説明していく。(光合成を行う藻類であっても褐藻(コンブ・ワカメなど)・珪藻などは系統が異なる。)
具体的にどの範囲を植物と呼ぶかは定説がなく、次に挙げる各範囲が植物界としての候補となる。
陸上植物
コケ植物、シダ植物、種子植物からなる単系統。古くは後生植物ともいい、陸上で進化し、高度な多細胞体制を持つ。この群を植物界とする分類はリン・マーギュリスが唱え、マーギュリスにより改訂された五界説と共に広まった。しかし、非常に近縁な緑藻植物などが含まれておらず狭すぎるという点がある。

ストレプト植物
陸上植物、車軸藻、接合藻からなる単系統。
緑色植物
ストレプト植物と緑藻植物からなる単系統。葉緑体がクロロフィル a/b をもち2重膜である。単に「狭義の植物 (Plantae sensu stricto)」と言った場合、これを意味することが多い。
アーケプラスチダ
緑色植物、紅色植物、灰色植物からなる、おそらく単系統のグループ。葉緑体が2重膜である。シアノバクテリアを細胞内に共生させた生物を共通祖先とする単系統群であるという仮説に基づき、トーマス・キャバリエ=スミスがこの系統を植物と定義した。単に「広義の植物 (Plantae sensu lato)」と言った場合、これを意味することが多い。ただし、より広義の意味と対比させ、「狭義の植物界」と呼ぶこともある。[2][3]

バイコンタ
アーケプラスチダ、クロマルベオラータ、リザリア、エクスカヴァータからなる単系統。アーケプラスチダは側系統であり、他のバイコンタはその子孫だが葉緑体を失った、という仮説に基づき、バイコンタを植物界とみなす説が出ている(Nozaki et al. 2007など)[4]。非常に広いグループであり、全ての(真核)藻類と多数の非光合成単細胞生物をも含む。ただし、非主流の系統仮説に基づいており、また広すぎて実用的でないため、あまり受け入れられてはいない。
このように、植物の定義が定まらないため、なるべく植物という名を避け別の呼び名を使う傾向がある。これは、動物がほぼ常に後生動物の意味で使われ、むしろ後生動物という言葉のほうが使われなくなりつつあるのとは対照的である。

歴史
リンネ以前
アリストテレスは、植物を、代謝と生殖はするが移動せず感覚はないものと定義した。代謝と生殖をしないものは無生物であり、移動し感覚のあるものは動物である。ただしこれは、リンネ以来の近代的な分類学のように、生物を分類群にカテゴライズするのとは異なり、無生物から生物を経て人間(あるいはさらに神)へ至る「自然の連続 (συνέχεια)」の中に区切りを設けたものである。たとえばカイメンなどは、植物と動物の中間的な生物と考えられた。
リンネ以降

植物系統図の一例
カール・フォン・リンネは、すべての生物をベシタブリア Vegetabilia 界(植物)と動物 Animalia 界(動物)に分けた。これが二界説である。
当時の植物には、現在は(広義でも)植物に含められない褐藻や真菌類を含んでいた。ただし、微生物についてはまだほとんど知られていなかった。
微生物が発見されてくると、次のような植物的特徴を多く持つものは植物に、そうではないものは動物に分類された。
光合成をする。
細胞壁をもち、多細胞のものは先端成長をする。
非運動性。
こうして拡大してきた植物には、現在から見れば次のような雑多な生物が含まれていた。
陸上植物・多細胞藻類 – 緑色植物、紅藻など。典型的な植物。
単細胞藻類 – 光合成をするが、細胞壁のないものや運動性のものもいる。
真菌 – 光合成はしないが、細胞壁を持ち、非運動性。
細菌・古細菌 – 一部は光合成を行うが、しないものの方が多い。細胞壁を持つ。運動性のものも多い。
しかし、これらのうち一部しか当てはまらない生物が多いことが認識されてくると、二界説を捨て新たな界を作る動きが現れた。
まず1860年、ジョン・ホッグが微生物など原始的な生物を Primigenum にまとめ、1866年にはエルンスト・ヘッケルがそのグループに原生生物 (プロチスタ) Protista 界と命名した。これにより、微生物や真菌は植物から外された。また、ヘッケルは同時に現在の植物 Plantae 界という名を命名した。ただしのちに真菌は、かつては光合成をしていたが光合成能力を失ったとして再び植物に戻された。
1937年にはバークリー(Fred Alexander Barkley)が、植物種の過半を占める菌類がクロロフィルを欠いている点を重視して、動物・菌類・植物に分ける三界説を提唱した[5]。
次いで1969年、ロバート・ホイタッカーが五界説を唱え、光合成をする高等生物を植物と位置づけた。表面栄養摂取をする高等生物、つまり真菌は菌界として独立した。なおこの段階では、藍藻類を含めた光合成生物が一つの系統的なまとまりを形成するという考えは暗に認められていた。
系統分類へ
しかし、分子遺伝学的情報が利用可能になったこと、原生生物各群の研究、特に微細構造の解明が進んだことから、光合成生物の単系統性は疑わしくなってきた。また、1967年、リン・マーギュリスの細胞内共生説は、同じ葉緑素を持っているからといって同系統とは言えないことを示した。
たとえば、ミドリムシ類は緑藻類と同じ光合成色素を持っている。したがって系統上は近いものと考えることができた。しかし、近年の考えでは、これは全く系統の異なった原生生物が緑藻類を取り込み、自らの葉緑体としたものだと考えられている。つまり、光合成能力は、その生物の系統とは関係なく得られると考えられる。したがって、現代では、藻類というまとまりに分類学的意味を見いだすことはできなくなってしまった。
これを受け植物界の範囲はさらに限定的なものへと変化していく。1981年、マーギュリスは五界説を修正し、陸上植物を植物界とした。これはよくまとまった群ではあるが、その際に植物から外してしまった緑藻植物なども当然系統関係は考えられる。実際、その後そのような関係は認められ、彼女の説は行き過ぎとの批判も出てきた。
同じ1981年、トーマス・キャバリエ=スミスは、八界説を唱えた。緑色植物+紅色植物+灰色植物は、葉緑体の唯一の一次共生を起こした生物を共通祖先とする単系統であるとして、これを植物界とした。ただしこの単系統性には疑問があるなどの理由で、新しい植物界の定義はあまり広まらなかった。一方、それまで(マーギュリス以前は)植物に含まれていたが別系統である褐藻などは、単細胞藻類の大部分やいくつかの原生動物と共にクロミスタ Chromista 界として独立させた。
2005年には、アドルらによって、「キャバリエ=スミスの植物界」がアーケプラスチダと命名され、この呼称が専門分野では一般的となる。アドルらはまったく新しい枠組みで生物界全体を見直すことを意図し、界などリンネ式の階級を使わなかったが、リンネ式の階級システムではアーケプラスチダを界とされることが多い。
現在の普及度から言うと、マーギュリスのものが最も一般的であると思われるが、一方で生物界全体から見ると、陸上植物は界としてはあまりにも小さすぎるという面もある。英語版ウィキペディアでは、陸上植物よりも広範囲となる緑色植物を植物界として採用している。また、アーケプラスチダの単系統性が確実になるにつれ、これを植物界とするような流れも再燃している。

分類学以外の用語
植物という語には、現代でもアリストテレスが意図したような「動かない生物が植物」という意味合いがあり、植物状態という表現もある。
また、本項の冒頭にもあるように「光合成をする生物」という意味合いもある。たとえば、植物プランクトンには、ハプト植物、クリプト植物などがあるが、これらでは光合成をするという意味で植物あるいは藻という語が使われている(二次植物参照)。
動物の中にも植物的な性質を認める、植物性器官、植物極などの語がある。
生物学のうち植物を研究対象とする分野を植物学 (botany) と呼ぶ。これは本来は植物 (plant, Plantae) とは異なる語で、分類学的な植物を意味するものではない。具体的には、陸上植物および全ての藻類を対象とする。植物の学名の命名規約は以前は国際植物命名規約 (International Code of Botanical Nomenclature) であったが、これも正確に訳せば国際「植物学」命名規約で、分類学的な植物ではなく、植物学の対象を指していた。なお、現在は国際藻類・菌類・植物命名規約 (International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants) となって、「植物学」の語はなくなった。

人間と植物
人と植物の関係は実に多様である。人間と植物の関係は、生物学で言う食物連鎖上の《消費者と生産者》の関係にとどまらず、人は植物を原料や材料として利用したり、観賞するなど文化や心の豊かさのためにも用いている。人間以外にも巣などを作る材料として植物を利用している生物がいるが、人間の植物の利用の仕方の方がはるかに多様である。人間と植物の関係をいくつか挙げると
栄養源としての利用(生物学的に言えば、食物連鎖上の消費者と生産者の関係)
葉・茎・根・果実を穀物・野菜・果物として、そのままあるいは調理、加工して摂取。
健康のために薬用植物として摂取。漢方薬などが良い例である。
人間生活のための利用
原料や材料として利用。
材木として。(木造の家屋の柱、壁、天井、床。家具などに。あるいは木工材料全般、彫刻の材木として)
竹細工、籐家具 等々
繊維質を利用して(紙の原料のパルプ、和紙、麻紐、麻布、畳、縄、わらじ 等々)
生きたまま防風林として
生きたまま生垣として(下記観賞用も兼ねる)。
エネルギーの生産のため。(木炭や竹炭など)
鑑賞用
園芸(ガーデニング)
鉢植え(観葉植物、盆栽など)
地植え(造園)
切り花(いけばななど)

ドライフラワー、押し花
絵画や彫刻の対象として。例えばアールヌーボーでは植物は主要なモチーフである。
酸素のつくり手として。良好な環境をつくり出してくれる存在として。
その他、良質な微量物質に触れたり、ストレス解消に活用するために森林浴
(存在を特に望んでいない場合は人は植物を勝手に)雑草や雑木などと呼ぶこともある。

帰化植物
脳幹のみによって生きている人間を植物人間と呼ぶのは、20世紀初頭の生理学において「意識がなくても維持される生理機能」を植物的性質と称したことによるもので、生物としての植物には何ら関連が無い。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A4%8D%E7%89%A9

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